試行プログラム「DSMER」に思うこと

米国特許商標庁(USPTO)では、発明適格性に対する応答を遅らせることができる試行プログラム(DSMER:Deferred Subject Matter Eligibility Response)が最近開始されました。本プログラムは、2022年7月30日に終了する予定です。

本プログラムの効果は限定的とも思われ、また、一部否定的な側面もあります。

まず、米国特許法101条に基づく発明適格性の拒絶と他の理拒絶由(例えば自明性)による拒絶の両方が出された出願のみ、本プログラムの対象となります。このプログラムの利用により、(a)「最終処分」まで、または(b)発明適格性に関する拒絶だけが残る段階まで、出願人は発明適格性の拒絶の応答を先送りすることができます。

ここで「最終処分」とはファイナルOAが該当するので要注意です。そのため、出願人は、1回のオフィスアクションに対してのみ発明適格性による拒絶の応答を先送りできるのが通例です。

つまり、ノンファイナルOAに対する応答の段階では発明適格性拒絶に応答しなくてよいことがこのプログラムの利点となります。したがって、プログラムへの参加要請を含むノンファイナルOAを受けた場合に、出願人は、(a)発明適格性に関する拒絶の応答を遅らせない、(b)発明適格性に関する拒絶への応答を一部遅らせる、(c)発明適格性に関する拒絶への応答を完全に遅らせる、という3つの方法から選択できます。

(a)発明適格性に関する拒絶の応答を遅らせない、を選んだ場合、本プログラムに参加する意味がありません。さらに、発明適格性に関する拒絶に応答する際に包袋禁反言が相当程度発生するおそれがあります。そのため、このプログラムがない場合であっても、審査の早い段階で発明適格性拒絶に出願人が応答書による反論で対応できる可能性は低いでしょう。

一方、(c)試行プログラム「DSMER」を利用して発明適格性に関する拒絶への応答を完全に遅らせたいと思う出願人もいるかもしれません。結局のところ、発明適格性に関する拒絶には、クレームを補正する他の理由(自明性拒絶など)によって間接的に対応できます。しかし、発明適格性に関する拒絶は、例えば、先行技術による拒絶や不明確拒絶とは異なる要件を最終的に満たす必要があります。したがって、発明適格性に関する拒絶への応答を完全に遅らせることによって、(a’)発明適格性に関する拒絶理由のみを含むオフィスアクションが追加で発行される可能性が高くなり、さらに(b’)ファイナルOAの応答において出願人の選択肢が限定される可能性が高くなります。例えば(b’)について、出願人が主題適格性に関する拒絶に反論していなかった場合には、審判が難しくなるでしょう。

したがって、出願人には選択肢(b)「発明適格性に関する拒絶への応答を一部遅らせる」、がおすすめです。つまり、出願人には、発明適格性に関する拒絶を慎重に評価し、必要に応じてクレームを補正することをおすすめします。ただし、出願人が補正した特徴について主張することは、遅らせたほうがよいでしょう。これにより、主張により出願審査経過を生じることなく、審査を進められます。

なお、このプログラムには、一部否定的な側面があります。上で述べたように、他の拒絶(特に自明性拒絶)に応答する補正によって、発明適格性に関する拒絶にも対応できることがあります。しかし、これらの補正によって、発明適格性に関する拒絶に対応できない可能性があり、この場合には追加のオフィスアクションが発行されるおそれがあります。実のところ、本プログラムの目的は、発明適格性に関する拒絶への応答を遅らせたことで追加のオフィスアクション発行が必要となるかを米特許庁が判断するためでした。

もう一つの否定的な側面として、出願人が発明適格性に関する拒絶への応答を遅らせることで、ファイナル応答時に補正を特許庁に受理してもらえると期待するかもしれませんが、それは誤りです。具体的には、米国特許法1.116(b)(3)によると、ファイナル後の補正が認められるためには、補正を早期に行わなかったことについての「正当かつ十分な理由を示す」必要があります。USPTOでは、DSMERプログラムへの参加は、発明適格性に関する拒絶を早期に提示しなかった「正当かつ十分な理由」には該当しない、としています。ファイナルの後に発明適格性に関する補正が受理されると考えてプログラムに参加された方がいるかもしれませんが、そうではないのです。

結局のところ、選択肢(b)発明適格性に関する拒絶への応答を一部遅らせる、を使ってプログラムに参加するのが適切と考えます。しかし、出願人が(上述した私共の推奨する実務と)同様の対応を既にされていた場合には、このプログラム参加のメリットは限定的となります。

発明適格性に関する拒絶への応答について、モダル(Modal PLLC)がお手伝いできることがあれば、ご連絡ください。

Tags:

Leave a Reply

Your email address will not be published.