自明性の拒絶に対して日本式の反論を行っても、USPTO(米国特許商標庁)では多くの場合上手くいきません。理由を説明します。
まず、米国の特許審査には次の手順があります。「当該クレームが先行技術に照らして自明である理由を示す一応の証拠を特許審査官がはじめに示す。[そこで]立証責任が[出願人に]移り、出願人が証拠を提出するかまたは反論する。」MPEP 2142(ACCO Brands Corp. v. Fellowes, Inc., 813 F.3d 1361, 1365–66, 117 USPQ2d 1951, 1553-54 (Fed. Cir. 2016)引用)。
MPEP(米国特許審査便覧)の要約によると、自明性審査には2つの段階があります。第1段階では、「一応の自明性(prima facie case of obviousness)」が成立しているかどうかを検討し、第2段階では、一応の自明性を覆す出願人による証拠の提出または反論が有効であるか検討します。
つまり、第1段階では、一応の自明性が存在していないことを出願人が審査官に対して主張します。このような主張は、機械、電気、ソフトウェア、ビジネス技術といった予測しやすい分野の場合に主な戦略となります。「本発明の構成と異なる(missing element)」とも呼ばれる反論方法です。
クレームの構成要件が欠落しているため一応の自明性が成り立たない、という主張を出願人が行わなければ、審査官が立証した一応の自明性を出願人が基本的に認めたことになります。その場合、出願人は、証拠の提出(例:宣誓供述書)または反論(例:引例の組合せに対する「阻害要因(teach away)」を主張する反論)によって、自明性の認定の克服を試みなければなりません。
例えば、主文献Aと副文献Bの組合せによってクレームは自明として拒絶した場合、審査官は、引例Aと引例Bによって一応の自明性が成立したと考えています。
この拒絶に対する日本式の典型的な反論は次の通りです。「引例Aと引例Bの組合せは自明に見えるが、引例Aにも引例Bにも教示されない発明効果が組合せによって得られるため、その組合せは自明ではない。」
この反論は、本発明の構成と異なることを主張するものではないため、一応の自明性が存在していないことを主張するものではありません。したがって、出願人は、一応の自明性が成立したことを基本的に認めたことになります。
すなわち、クレームに記載の発明が「公知」と出願人が認めたことになります。その後、審査官は、「引例の潜在的特性を認識するだけでは、その他の点では公知である発明を非自明とすることはできない」という考えに依拠することができるようになります。MPEP 2145 II (In re Wiseman, 596 F.2d 1019, 201 USPQ 658 (CCPA 1979)引用)。
すなわち、出願人による日本式の反論は、引例Aと引例Bの組合せにおける潜在的特性を認識しているに過ぎないと考えられます。「先行技術の示唆に従うことで当然生じるであろう別の利点を[出願人が]認めたという事実は、その相違が他の点において自明である場合には、特許性の根拠にはならない。」MPEP 2145 II (Ex parte Obiaya, 227 USPQ 58, 60 (BPAI 1985)引用)。
したがって、引例Aと引例Bの組合せが発明の効果を欠くと主張しても、特許性の根拠(つまり、引例Aと引例Bの組合せを克服すること)にはなりません。このため、自明性に関する拒絶を克服するためには、日本式の反論を主な方法とすることは、通常は推奨できません。なお、「本発明の構成と異なる」という反論の補助的な主張として提出することはもちろん可能です。
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